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インタビュー

2012年に子どもを迎えたご夫婦のインタビュー

不妊治療の「やめどき」がわからなかった……

――特別養子縁組でお子さんを迎えたいと思われたいきさつについて、ご結婚当時のことからお聞かせください。

 父:結婚したのは2003年です。もう十年が経ちましたね。

 母:結婚したら妊娠をして、子どもを育てるという流れを想像していましたが、なかなか妊娠に至りませんでした。不妊治療専門の病院に通いながら、3~4年は治療を続けていました。その途中で妊娠できたことが2回あったのですが、残念ながら流産となり……。2回目のときには辛さに耐えられなくて、いったん不妊治療をやめることにしたのです。

 父:不妊治療は、「続けるか否か」という判断はこちらにまかされます。これは非常に難しいもので、「やめどき」というものがわからないのです。でも2回目の流産の後にインターバルを置こうということになり、そのときから、「養子を迎える」ということを視野に入れるようになりました。

――養子を迎えるということについて、お二人の考えは一致していましたか?

父:私はもともと「自分と血がつながった子どもでなければ」ということに重きを置いていなかったのです。私は昔から子どもが大好きで、学生の頃は子どもの野外教育団体に所属し、夏休みには小学生の子ども達と大自然の中で生活し、火を起こして食事を作ったり、一緒に寝泊まりしながら精神的な成長を促す活動のお手伝いをしていたこともあります。こうした経験があったからでしょうか、自分の子はもちろん可愛いでしょうけれど、血がつながっている、つながっていない、という部分へのこだわりはあまりなかったのです。

 母:彼が子どもを好きなことはよくわかっていましたし、私の中でも、血のつながりだけにこだわらないということは、自然に受け入れられました。お互いにそう思っているのなら、養子縁組という方法を進めてみようということになったのです。

赤ちゃんにはすぐにお父さんとお母さんが必要

――どのように情報を集められましたか。治療をなさっていた病院では得られましたか?

 父:2007年くらいだったと思いますが、今よりは情報もかなり少なかったです。主にインターネットなどで情報を集めていました。

 母:私もほとんど目にしたことがなく、不妊治療をしていた病院でも養子縁組のことを知る機会はありませんでした。

 父:まず話を聞きに行ったのは、児童相談所です。しかし児童相談所では「特別養子縁組の実績は非常に少ないのが現実です」と強調されました。私たちは赤ちゃんからの縁組を希望していましたが、「小さい子は、病気が後で見つかることもありますから2歳以下の子で委託することはしていないんです。」というお答えでした。行政のお仕事なので仕方がないとは思いますが、リスクのみを捉えて心配しているという印象は拭えませんでした。児童相談所では実習を受けて認定をもらい、里親登録もして、養子縁組に向けて準備を進めました。

 ――民間のあっせん団体ともお話をなさったのですか?

 父:はい。そのあとにインターネットで知った民間団体に問合せをして、面談をしました。民間団体の方は、やはりフレキシブルな対応をしていましたね。本質を見てくれている感じがしました。

 ――本質といいますと?

 父:子どもの立場であるということです。例えば、「病気がわかるまで施設に置いておこう」ということではなく、「赤ちゃんにはすぐにお父さんお母さんが必要だ」という考えを優先して、決まりごとにも柔軟に対応しています。そこが民間団体の本質だと思います。決まりごとやリスクを重んじるだけでは、それはできないでしょう。当時は、「愛着障害」という言葉はまだほとんど聞かれませんでした。しかし私は、感覚的にですが、そこの部分はとても大事だと思っていました。「愛着障害」ということについては、科学でどこまで証明されているのか詳しくありませんが、赤ちゃんにすぐ親が必要だという点を重視して縁組に取り組むことがとても重要だと私は思っています。間違いなく、大切なことです。

 母:この点は、私もまったく同じ考えです。「成長の過程で病気が見つかるかもしれない」ということは、実子を育てている方も同じですよね。性別が選べないこともしかり。心構えとしては「無条件」ということが大切だという思いがありました。

お電話で「新生児の用品をご準備してください」と

 ――Nちゃんはアクロスジャパンの小川多鶴さんがつないだご縁ということですね。

 父:そうです。最初に面談に行った団体さんとは違うのですが、その後2012年の春にアクロスジャパンのホームページに出会い、たまたまそのとき「説明会のご案内」とあったので、申し込みをしました。そこで、アクロスジャパンの代表である小川さんのお話にとても共感しました。それは、先程から申し上げている「子どもは産まれた時からお父さん、お母さんが必要である」ということです。私たちも本当にそう思いますという話をしました。

 母:私たちはすでに児童相談所で里親登録をしていましたし、養親希望者としてもご安心をしていただけたのかなとは思います。とはいえ、待っていれば来る保障もなく、数年待っている人はざらという話は他でも聞いていたのでそういう覚悟はしていたのです。ところが、それから数ヶ月も経たない時期に、小川さんからお電話があったのです。「新生児の衣類や用品をご準備しておいてください」と。

 父:お電話ではまだ詳しいことは知らされなかったのですが、産まれる直前だったようです。とにかく、驚きとうれしさでドキドキしながら、赤ちゃん用品店で「これかな? これかな?」と買い物をしました。まだ性別はわかりませんから、黄色やグリーンのベビー服を選んだりしながら(笑)。その1週間くらい後に「女の子をお迎えすることになりました。お名前をつけてください」とご連絡がありました。

 母:出生届に間に合うように、二人で一晩中考えました。産まれた季節、私たちとのつながり、そして「グローバルな視野を持って活躍してほしい」という願いを込めた名前、私たちの思いを込めた名前をつけてあげることができました。

「なんて小さいんだろう」喜びと責任を感じる  

 ――Nちゃんとのご対面はいかがでしたか?

 父:最初の電話を受けてから、2週間も経たない、とても暑い夏の日に、Nは我が家にやってきてくれました。小川さんと保育士の方に連れられたNを駅まで車で迎えに行きました。一目見た時に「なんて小さいんだろう。かわいい」と心が震えました。そしてうれしさと同時に、親としての責任を強く感じました。自宅に戻り、妻と対面したとき、彼女はポロポロと泣いていましたね……。いろんな思いがこみ上げてきたのだと思います。

 母:顔を見た瞬間、「やっと会えた」という思いでいっぱいだったのです……。私たちのところに来てくれたんだ、と。妊娠期間のような心の準備の期間はなかったかもしれませんが、この子を迎えるまでのさまざまなことを通して、親になる準備をしていたのだと思います。小さな我が子を抱っこした喜び、そして責任。親になるんだ、しっかり育てていこうという思いを新たにしました。

その日は意外に早く小川さんたちはお帰りになりまして、少し心細い気もしました。でも弟夫婦や母にも手伝ってもらい、そのときから、私たちは3人家族の生活が始まったのです。夫が最初におむつを替えて、私がミルクをあげて。そうした日々が重なり、現在に至るわけですが、もうNがいなかった生活がどうだったか思い出せないくらい(笑)、今は子育て真っ只中という感じです。

縁組が成立して、何にも代え難い幸せな日常

 ――その後に養子縁組が確定したのはいつごろでしたか?その間に何かご心配は?

 父: 確定するまで1年くらいはかかりました。うちの場合は、産みのお母さんの方での複雑な事情もあり、それを経てからの特別養子縁組申立てになりました。「手続きのところは難航するかもしれません」ということは予めお知らせいただいていたので、不安はありませんでした。

 母:こうした事務手続きは、Nを育てるのには直接関係がないので、正式な縁組成立までの期間はさほど心配なことはありませんでした。

 父:0歳から1歳の子育てについては、他のお子さんのいらっしゃるご家庭とまったく同じだと思います。大変なときもあれば、しみじみと幸せを感じる時間もあるという。特別に変わったことはまったくないと思います。大変だったときのことをお話すると、ニュースでご存知かもしれませんが、首にかけてウイルスを寄せ付けないという「ウイルスプロテクター」を使用して、やけどをさせてしまったこともあります。このときは、一週間入院することになり、私も会社を休んで看病をしました。そんなこともありましたが、今はおかげさまですくすく育ってくれています。縁組が成立したときは、生活は何も変わらないけれど、やはりとてもうれしかったですよ。家族でお祝いをしました。

 母:これで、病院で名前を呼ばれるときも、私たちの家族の苗字で呼んでもらえるようなりましたね。それまでは、以前の戸籍の苗字でしたので。名実ともに親子になれたと実感しました。

 ――改めまして、Nちゃんをお迎えになっての生活をどう感じていらっしゃいますか?

 父:子育てをしている皆さんが同じ気持ちだと思いますが、こうして普通に暮らしていける日常というものが、どれだけ大切であるか、ということを日々感じています。もちろん、夫婦ふたりの時期も大切でしたが、この子を迎えて、家族3人の時間は、何にも代え難い幸せを感じます。

 母:私たちは、「この子に親にしてもらっている」と、そう思います。まだ一人でできないことが多い小さいNに、いろいろとこちらが教えていくわけですよね。でも、そうやって教えていく度に、こちらが「教えられているな」と感じるのです。親としてのあり方を。この子に「親にしてもらっている」というのはそういう意味です。

養子として迎えたことは自然に話していく

 ――これからのことをお聞かせください。Nちゃんには養子として迎えたことをどのようにお話なさいますか?

 父:実は先日、少し話してみたんですよ。まだ言葉をよくわかるわけではありませんが、「おとうさんと、おかあさんと、産みのお母さんもいるんだよ」ということを話してみました。記憶には残っていないとは思いますが。

いわゆる「出自の告知」についての私たちの方針としては、このように自然な会話の中で、ポジティブに伝えていけたらと思っています。その際の言い方、表現については、悩む点もありますね。あまりにも「産みのお母さんもいた」ということを強調すると、かえって「おかあさんは産みのお母さんの代わりなの?」と混乱するかもしれませんから。あくまで、「おとうさんはこのお父さん、おかあさんはこのお母さん。そして産んでくれたお母さんもいるんだよ」ということ、そして「これまでもこれからもずっと変わらないよ」ということが自然に伝わるような話し方ができたらと思います。私たちは産みのお母さんにもお会いしていますし、もう少し大きくなってから見せてあげられるような、託されたものもあります。Nに何か尋ねられたとき、私たちが知っていることは正直に伝えますし、わからないことはそのままわからないと話すでしょう。

 ――周囲の方の反応でご心配なことなどはありますか?

 母:近くに住む私の両親や兄妹たちも喜んでくれています。実は両親たちは、最初は反対していたのです。どういうものかあまりわからなかったからでしょう。でも、Nを迎えてからは、そんなことが嘘のように、可愛がってくれています。

 父:ご近所の方にも「血縁はないんですよ。でも娘であることに変わりありませんね」と初めからオープンにしています。みなさんは「そうなんですね。かわいいですね、お名前は?」と、自然に受け止めてくれています。職場にはまだ連れて行ったことはありませんが、みんな知っています。こちらが当然の顔をして臆することなく話すからでしょうか。実際にこの話をして、怪訝な表情をしたり、マイナスなことを言われたりする方は、今のところほとんどいません。それよりも「実は私の知り合いが不妊で悩んでいて…」と、ご相談を受けることの方が多いくらいです。「養子縁組という道もあるのか」と、改めて調べられた方もいらっしゃいます。もちろん、世の中にはいろんな考えの方がいると思います。私の周辺の方々のように、自然に受け止めてくれることが当たり前の世の中になってほしいと思っています。

子どもの幸せのために、一歩を踏み出してほしい 

――特別養子縁組をご検討なさっている方へのメッセージをいただけますか?

 父:一人の子どもに責任をもっていくこと、「人の親になる」ということに本気になってみてください。その思いは、みなさんすでにお持ちだと思うのです。その思いさえあれば、恐れることはありません。一歩を踏み出してみてほしいと思います。きっと、素晴らしい生活が待っていると思います。

 母:こうして子育てをしていて感じるのは、血がつながっている、つながっていないということよりも、もっと大事なことがある、ということです。一緒に生活していく中で、形ではなく、感じるものがあるのです。血縁というものは、今の生活をしていく中で、あまり関係ないことだと私には思えます。血のつながりというものを過大に捉えて、恐れる必要はありません。そのことをお伝えしたいです。

 父:養子として迎えた家族であっても、何も変わりません。同じ子育て家庭です。名前は特別養子縁組と、「特別」かもしれませんが、いたって「普通」なのです。遺伝的には異なっているでしょう。しかし、それはそれだけのことだと思います。

 ――これからNちゃんにどんな風に育ってほしいと思っていらっしゃいますか?

 父:人に優しくできる人間に育ってほしいです。そして、狭い世界だけでなく、グローバルといいますか、広い世界を見据えた生き方をしてほしいです。そうやって羽ばたくための基礎となること、自分の根っことなるものをこの家庭の中に持ってくれればと思います。

 母:人の痛みがわかる子どもになってほしい。その子の痛みがわからないから、いじめなども起きると思います。人の痛みを、自分の痛みのように感じることができる人に育ってほしいと思います。

 父:才能を伸ばすという意味では、未知の楽しみがあります。特別養子縁組で家庭に迎えられるということは、何らかの事情があってのことです。そこにリスクを感じる人もいるかもしれませんが、ポジティブにとらえるなら、私たち夫婦が思いもよらない才能を持っているかもしれませんよね。きっと、親とはまた違う才能がありますよ。そこを親として発掘してあげたいです。違って当たり前なので、私は絵が苦手だけど、この子は得意かもしれません。「だいたいこの程度だろう」ではなく、私たちが注意深く育てながら「発見・発掘する」ことができると思います。違うということをポジティブに捉えて、楽しみながら育てていきたいと思っています。

私たちは、社会と子どもたちの間の絆を築く。

すべての子どもたちは、
“家庭”の愛情に触れ、健やかに育ってほしい。
それが、日本財団 子どもたちに家庭を
プロジェクトの想いです。

プロジェクト概要