家庭養育推進事業
日本財団は、すべての子どもたちが家庭の愛情にふれ健やかに育つため、家庭養育を推進する各種事業を行っています。

1. 家庭養育推進自治体モデル事業

(1)事業概要

地方自治体との協定により、子どもたちがその権利を尊重され、安全・安心であたたかい家庭において育つことを目指す共同事業を2021年から開始しました。

日本財団は、協定を結んだ自治体の取り組みを支援するため、最長5年間で5億円規模を想定した助成を、自治体において家庭養育の推進に取り組む民間団体に対して行います(※日本財団が地方自治体に対して直接、資金協力を提供することはできません)。一方で地方自治体は、2025年度末までに3歳未満の里親委託率75%以上の達成を目標として取りくみます。協定書では、社会的養護を必要とする乳幼児について、まず実親を支援して家庭復帰を試み、それが難しい場合はできる限り速やかに特別養子縁組や長期里親委託を検討するなど、パーマネンシー(永続的な家庭)保障を目標とする方針も明記されており、他にも年間の新規里親登録数の目標も定めています。

事業の内容には、里親委託や特別養子縁組などの推進や、乳児院・児童養護施設で生活する子ども達の実家庭への復帰支援、また子育てに課題をかかえる在宅の親子支援や親子分離の予防、関係者の研修等が含まれています。

2021年に大分県、山梨県、福岡市の3自治体と協定を結んで事業を開始し、それぞれの自治体において乳児院の多機能化や、フォスタリング機関による里親リクルートや里親支援、児童家庭支援センターの親子支援等の事業を支援しています。

また、本事業では早稲田大学社会的養育研究所に、プロジェクトの研修、コンサルティングの提供、事業成果の検証等を実施して頂いています。

里親委託率の向上を目指すだけでなく、あわせてその成果、課題、子どもへの影響等も検証し、全国において同様の取り組みを広げていくために参考となるエビデンスの蓄積と、モデルの構築を目指します。

(2)活動紹介

三自治体合同研修


  • 2025年7月に福岡県福岡市で三自治体合同の研修を実施しました

(3)助成事業の例

児童家庭支援センターの設置及び機能拡充

大分県では、県西と県南に里親家庭や子どもや家庭支援のための資源が少ないことが課題でした。そのため、新しく日田市と佐伯市の2か所に児童家庭支援センターを新設しました。児童家庭支援センターでは子育ての相談にのるほか、子どものショートステイや里親のレスパイトなどの短期の宿泊も可能です。親子での宿泊も状況に応じて受け入れが可能です。


  • 日田市における児童家庭支援センターの設置

  • 佐伯市における児童家庭支援センターの設置

里親支援センターの新築及び機能強化

山梨県では、フォスタリング機関(里親支援センター)の新築や、子ども関係者向けの研修を実施する研修棟の新築などを支援しました


  • 研修棟の建築

  • フォスタリング機関の建築

2. 乳幼児緊急里親事業

(1)事業概要

乳幼児緊急里親事業は、乳幼児の家庭養育を推進するための新しい事業として、日本財団の助成によりモデル的に開始されました。国連で採択されている「子どもの代替養育ガイドライン」において、乳幼児、特に3歳未満については、原則として家庭で養育されるべきとされています。乳幼児期のアタッチメント形成の重要性や発達の観点から、アメリカ、カナダ、オーストラリアやヨーロッパの多くの国々では、3歳未満の子どもが職員が交代する施設で集団養育されることはほとんどなくなっています。ドイツ、イタリア、スウェーデンなどでは、赤ちゃんを緊急保護した場合に預かってくれる里親さんを確保するため、緊急里親の制度があります。

現在の日本では、3歳未満の子どもで里親やファミリーホームなどの家庭で生活している割合は25.3%にすぎません(令和4年3月末現在)。国として、未就学児の75% は里親による養育を目指すとの方針が出ており、赤ちゃんを預かることができる里親さんとその支援体制をしっかりと構築することが重要です。2021年より大分県のNPO法人chieds、2022年より山梨県の(社福)子育ち・発達の里、2024年より札幌市の(社福)麦の子会が、それぞれ日本財団の助成をうけて緊急里親事業を実施しています。民間団体は自治体と協力し、緊急里親を募集し選考のうえ、緊急里親と契約をおこない、毎月の待機料(約10万円)を支払います。緊急里親は、原則として依頼があった時は乳幼児の一時保護や委託を受ける事が求められます。委託期間は自治体によって違いはあるものの比較的短期間(通常は2か月~数か月)で、実親復帰につなげるか、それが難しい場合には特別養子縁組や長期の里親養育へつなげる事が目標です。民間団体は、緊急里親に研修や支援も提供しています。

2024年に改正された国の「一時保護ガイドライン」でも、「とりわけ乳幼児については未委託の里親等への委託一時保護の活用を検討することが重要」と記されており、今後の乳幼児一時保護においても里親委託の推進が求められています。

大分県、山梨県、札幌市では、日本財団が助成金を提供してきましたが、2025年からは世田谷区が区の独自予算で乳幼児短期緊急里親事業を開始しています。

東京新聞 「里親待機制度」世田谷区が導入へ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/384509#:~:text=%E8%99%90%E5%BE%85%E3%82%92%E5%8F%97%E3%81%91%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%97,%E5%8F%97%E3%81%91%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%9E%A0%E7%B5%84%E3%81%BF%E3%82%92%E7%9B%AE%E6%8C%87%E3%81%99%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%80%82 https://note.com/fostercare_75p/n/n69244205f1d5

(2)助成事業の例

1. 大分県における乳幼児緊急里親事業

大分県では2021年度から乳幼児短期緊急里親事業を開始しました。NPO法人のchiedsが、緊急里親さんの募集やスケジュールの管理、研修の提供などを実施しています。毎年4~6名程度の里親さんに活動して頂いています。

NPO法人chieds代表 河野洋子様「乳幼児緊急里親事業について」

日本では、夜間休日を含めた緊急対応時の里親への一時保護委託は、里親の負担が高いことや支援体制の課題から、ハードルが高い状況がありました。そこで2022年、家庭養育推進自治体モデル事業のひとつとして、乳幼児緊急里親事業を始めました。里親に待機料を支払うことで24時間365日、児童相談所の要請に応じて乳幼児を預かるという全国でも初めての仕組みです。緊急里親は地域バランスを考慮して養育里親から6組程度を募集しました。こどもの委託に関することは児童相談所が行い、chiedsは物品の準備や待機状況確認、児童相談所との連絡調整を行います。
これまで4年間で、延べ179人が延べ2,261日間利用しました。緊急時であっても確実にこどもを預かってくれる里親家庭の存在は、子どもに安心感をもたらします。また、移動距離・時間の短縮は、子どものみならず多忙な児童相談所職員の負担軽減になり、さらには乳幼児の里親委託の牽引にもつながりました。
課題の一つは、全国に横展開するためにも国による制度化が必要なこと、二つ目は、里親の養育負担(特に幼児を委託した場合)の軽減です。
子どもにとって一番良いことを。これからもchiedsのチャレンジは続きます。

◆NPO法人chieds
https://chieds.or.jp/#page01




緊急里親 横山奨様、かおり様「乳幼児緊急里親を経験して」

私たち緊急里親は24時間待機するいわば「小さな子どもの救急隊」みたいな役割だと思っています。早朝深夜、休日問わず、連絡が入れば3時間以内に受入れ準備、里子の到着を待ちます。情報がほとんどない上、体調を崩している子も多く、初めの数日間は特に注意が必要で手探りの養育がスタートします。不安や恐怖の中、知らない場所での生活が突然始まる子どもたち。「ここは安全だよ」と肌で感じとってもらえるよう意識しています。それは祖父母や親戚の家のような…。事業スタート当初は戸惑うことも多かったのですが、経験を積み重ねるにつれて緊急里親の必要性を実感できるようになりました。愛着形成、その最も重要とされる乳幼児期に1対1の濃い関わりを家庭の中でできることが里親養育の最大の強みだと感じています。たとえそれが数日であっても。大変だと感じることがあるのも事実ですが、日に日にやわらかくなっていく里子の表情や様子にやりがいを感じています。この4年間の非常に濃い経験は私たち夫婦にとっても深い学びになっています。
(写真:二人の孫とともに)




2. 札幌市における乳幼児短期事業

札幌市では、4名の緊急里親が待機しており、乳幼児を緊急に保護できる体制を整えています(社福)麦の子会が、赤ちゃんを受け入れるために必要な備品の整備や、緊急里親を対象とした研修の提供等も実施しています。

社会福祉法人麦の子会 事業担当 船木 香様 「乳幼児緊急里親事業について」

2024年度乳幼児緊急里親は5月に応募を開始し、選考の結果、4組の里親家庭を選定し7月から開始しました。これまで、14名の乳幼児の受け入れを行い9か月間の合計稼働日数は768日、里親1家庭の月平均は21日の稼働となりました。また、緊急時の待機用品の準備、子どもの年齢に合わせて必要な備品の貸出、休暇時の送迎、夜間急病対応などを行いました。緊急里親さんへの月2日のレスパイト対応、年5日の休暇対応も行いました。夜間の受け入れは2件ありました。
乳幼児期の育ちにはアタッチメントの形成と豊かな遊びと体験が不可欠であるといわれています。緊急里親さんたちがこどもに対し1対1の手厚い養育をすることで、家庭養育がアタッチメントの形成に重要な役割を果たしています。アタッチメント形成が子どもの発達に大きな影響を与えることから緊急里親は重要な役割を担っていることを赤ちゃん達の表情から感じました。
この事業を通じて子どもたちのために必要な環境をつくることの大切さを感じる一方で短期の一時保護の予定でも、思いがけず長期化になるケースもあり、いくつかの課題もみえてきました。
それぞれのこどもにとって丁寧な対応や関係機関との調整が必要だと感じています。

私たちはこれからも緊急里親さんたちと力を合わせながら、どの子もあたたかな人とのつながりの中で守られていくような仕組みづくりを進めていきたいと思います。

◆社会福祉法人 麦の子会
http://www.muginoko.com/




緊急里親 金田真季様 「緊急里親になって」

私は昨年度より乳幼児短期緊急里親として活動するようになりました。 里親としては今までも一時保護を中心に子どもさんをお預かりしていましたので短期緊急里親となっても 生活等に特に変化はありませんでした。しかし、いつでも「待 機」の状態は緊張とプレッシャーがありました。それでも夫や子ども達がどんな子が来ても色々と協力をしてくれ、可愛がってくれました。そんな中でも我が家で一番の人気者だったのは、外国人のご両親から生まれたAちゃんでした。ママが 産後の体調不良が続き、Aちゃんのお世話ができなくなったため我が家にきました。ママがしっかり動けるようになるまで数ヶ月我が家で過ごしました。いよいよおうちに帰る時に ほとんど日本語が難しいママから心のこもった お手紙をいただきました。一生懸命ひらがなで書かれたお手紙にママのAちゃんを思う気持ちが溢れていて、私もとても嬉しく感動しました。これからも、我が家にきてくれた子にはそれぞれの背景に合ったお世話をしながら、幸せへのお手伝いができたらとおもいます。  

社会福祉法人麦の子会の緊急里親さんの様子