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インタビュー

実親の同意がなくても特別養子縁組が認められたご家族のインタビュー

「7年間にわたる闘い ~子どもの福祉のための特別養子縁組~」

 2014年4月8日 下記の記事が新聞に掲載されました。

 「他人が出産した女児を出生直後から7年間育ててきた栃木県の50代の夫婦が、特別養子縁組を結べるよう求めた家事審判で、宇都宮家裁が実の親の同意がなくても「子供の福祉のため」と縁組を認める決定~中略~女児は虐待を受けておらずこうしたケースで実親の同意なしで縁組が認められるのは異例。間部泰裁判官は「実の親からは女児との交流や経済的支援の申し出もない。新たな親子関係を築くことが子供の福祉のためだ」と指摘した。民法上、特別養子縁組の成立には実親の同意が必要だが、例外として虐待などのほか「子供の利益を著しく害する」場合が認められており、間部裁判官は、この規定に該当すると判断した。」(産経新聞4月8日記事より抜粋)

今回は、この裁判で特別養子縁組が認められたご家族に、お話をお聞きしました。

長男を迎えた時に“親スイッチ”が入りました

――特別養子縁組でお二人のお子さんをお迎えになったそうですね。

母:不妊治療を4年ほど続けていましたが、年齢的にも限界を感じて、養子を迎えることを夫と相談して決めました。

父:人と人との「縁」があって、家族が生まれるわけです。その縁が、それが必ずしも血縁でなくてもいいというのが、私たちの思いでした。養子縁組を取り次いでくださる団体のOさんと、長い時間をかけて、養子縁組のいい話ばかりでなく、苦労する部分の話も聞き、それでも迎えたいということを二人で確認し合いました。

長男と初対面したときのことは忘れられません。産院に迎えに行き、顔を見たとたん、「この子は、私の子どもだ!」という気持ちがこみ上げてきました。“親スイッチ”がそこで入りましたね。

母:私もそうです。一目見た時から、「あ、うちの子だ」って(笑)。養子縁組を検討しているときは、家の後継が必要という事情もありました。でも、長男を迎えてからは、この子の存在が第一で、家を継ぐ、継がないは、あまり重要なことではなくなりました。

父:その後、長男も成長して、「やはりきょうだいがいたらいいよね」という話になりました。「まだまだ子育てしたい」というパワーもありましたから、Oさんに2人目も縁組の希望をいたしました。ほどなく「女の子で養子を希望している赤ちゃんがいます。どうですか」というお話が来まして、「ぜひお願いします」とご返事しました。

その後、産院で生後11日目の娘と感激の対面をしました。当然ながら、「産みの親の意思で、養子縁組をしたい」ということを確認し、話を進めることになりました。

母:娘は、その日から連れて帰り、一緒に生活を始めました。とても可愛くて! 「大事に育てていこう」と心に誓いました。

父:特別養子縁組制度は、6か月間の監護期間があります。申立時に「○月○日から養育しています」と陳述すると、その間に家裁の調査官の方や児童相談所の地区担当の方が、何回か養育の様子を見に来られます。我々が適切な養い親であるか、子どもをきちんと育てているか、住居の環境、財政状況などの、かなり厳しいチェックです。特別養子縁組をするということは、それなりのハードルはあるということです。

6ヶ月以上の監護期間が終われば、通常は家庭裁判所の審判を仰ぐことになります。長男のときは、7か月くらいで審判が下り、すんなりと行きました。前回の実績と経験がありましたので、今回も同じ経過を辿るだろうと思っていたのですが……。

戸籍に入れられない不安の中で子育て

母:子どもは「同居人」という形ですから、子どもの名前で国民健康保険を申請して保険証を作るためにも、先方から書類をいただく必要がありますが、なかなか届きません。

父:先方の都合で、書類が揃わず、民間あっせん団体のOさんにもご自宅を訪ねていただいたりしましたが、ご連絡が取れません。しばらくして、ようやく書類が届きましたので、保険証を作り、予防接種や健診もして、子育てを続けました。

そんなある日、「ある条件をのまなければ、特別養子縁組には同意しない」という内容の連絡が来てしまいました。このときは、裁判所の調査官とも相談して「養育期間が短いので、現段階で実の親の同意がなく特別養子縁組の成立は難しいだろう」、「2~3年養育して、実績をつくって、もう1回申し立てをしたらどうですか」というご提案をいただきました。私たちは無理をしても仕方がないと思い、泣く泣く取り下げました。

児童相談所にも「取り下げましたが、このまま養育を続けて問題ないでしょうか?」とお伺いしました。「このケースは、お子さんを戻すほうが良くないでしょう。先方が何もおっしゃらないないのであれば、裁判所の調査官の助言に従ったほうがいいのでは」という言葉をいただき、「同居人」という状態のまま、子育てをいたしました。

母:養育中も先方からはご連絡がありません。私たちは、普通に子育てはできても、まだ戸籍に入っていないことを思うと、やはり不安になりました。やがて、幼稚園に入る年齢になり、何とかしたいと思って、2回目の申し立てをすることにしました。

父:先方は「特別養子縁組で法的な親子関係が切れてしまうことは嫌、普通養子縁組ならいい」ということでしたが、3年間、なんのご連絡もいただけないのは、「育児放棄」に当たるのではないかと思いました。しかしながら、裁判所の判断は「実母の同意なしに許可するまでには至っていない」でした。

「特別養子縁組の根幹に関わる」と弁護士らがサポート

母:納得できなかったのは、私たちの家で育てられているということ自体が、「安定した環境で子どもを育てているということなので、育児放棄には当たらない」という裁判所の判断を受けたことでした。もちろん控訴しましたが、「家裁の審判をそのままを認める、差し戻しするにはあたらない」と却下されました。弁護士に控訴趣意書を書いてもらい、再度控訴しましたが、それも却下。このまま同意がないと特別養子縁組はできず、子どもが宙ぶらりんのままです。

その後、東日本大震災が起こり、世の中も混乱していましたので、何の連絡もないまま、娘は6歳を迎えることになりました。

父:特別養子縁組制度は、原則6歳未満が対象ですが、6歳以前から養育をしている実績があれば8歳までなので、もう少し余裕がありました。

母:「諦めて、普通養子縁組にしてはどうか」というご意見もありましたが、私たちは子どもをきちんと育てているのに、認めていただけないのは、納得がいきませんでした。

――普通養子縁組だと、実父母との親子関係が残ってしまいますよね

母:それが将来、子の負担になるかもしれません。私たちがいなくなったときのことまで考えて、娘の後ろ盾になってあげるためには、特別養子縁組にしておかなくてはならない。この子を産むことはかなわなかったけど、それだけはどうしてもしてあげたかった。

 その後、養育仲間に相談をして、議員さんや弁護士さんをご紹介いただいたところ、「これは特別養子縁組が認められないほうがおかしい。これは特別養子縁組の根幹にかかわる問題だ」とおっしゃっていただきました。

父:こうした力強いサポートをいただいて、もう一度、特別養子縁組の申し立てをすることにしました。弁護士には申立書の他に、意見書も書いていただきました。すると、家庭裁判所から「審問したい。裁判官と会っていただけますか」と言われました。これは異例のことだったそうですが、私たちと実父母を召喚して、裁判所で現状の問題確認することになりました。

私たちは担当の弁護士さんと一緒に行きましたが、そこに実父母は出席しませんでした。「私たちは子どものためにも安定した養育をするためにも、ぜひとも特別養子縁組をしたい」という意思を述べて帰ってきました。そして審判は進み、ようやくですが、裁判所にも認めてもらうことができて、特別養子縁組が許可されました。ここまで7年間もの期間を要しました。

─長い期間がんばってこられたのですね。それを支えてくれたのは

父:私たちをご存知の方は「本当によかったね」と安心してくださるのですが、新聞記事だけをお読みになった方は、「実親さんがかわいそうなのでは?」という疑問を抱かれると思います。いろいろと申し上げたいことはたくさんありますが、私たちが一番危惧したのは、「当の子どもに対して無関心」だったことです。

戸籍に入らないと、公的な書類を出すときに「同居人」となります。私たちにもしものことがあったとき、祖父母や親戚などの私たちの家族が子どもの面倒を見られなくなります。養育を許されている人がいなくなれば、実の親に行きます。そこで実の親が「育てない」となれば、施設に入ることになります。それだけは絶対に避けたいと思いました。

親としての責任を果たすために、戸籍に入れて、守っておかなくてはならない。

─この長い期間、耐えてこられた、その支えとなったものは何ですか?

父 やはりこの子の存在が、かけがえないということ。そして、養親仲間や周囲の方に、そのときどきでサポートをしていただけました。だからこそ、異例続きではありましたが、良い意味で「異例の」という形容詞が付く決着になったのだと思います。私たちがくじけたら、この子は、大人の都合であっちへ行ったりこっちへ行ったり、不安定なままです。責任を持って、安定した環境で育てる、私たち大人がやるべき第一のことです。

母 私たち夫婦と子どもたちの縁もそうですが、この子たちきょうだいの「縁」も、親として大事にしながら、家族としてつつがなく暮らしていけたらと思います。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

事務局追記

諸外国では、産みの親が育てられない子どもの福祉としての養子縁組の場合、実親との法的な親子関係がなくなり、養親との親子関係のみになる(日本でいう特別養子縁組)のが一般的で、むしろ日本の普通養子のように産みの親との親子関係が残る方が例外的です。
アメリカなどオープンアダプションが盛んな国では、実親が養子に出した子どもと交流しているケースも多くあり、法的な親子関係がなくなること=関係を全く断絶することではありません。2016年には日本でも児童福祉法が改正され、子どもの利益を最善に考えた特別養子制度の推進へ向けて動き出しています。

私たちは、社会と子どもたちの間の絆を築く。

すべての子どもたちは、
“家庭”の愛情に触れ、健やかに育ってほしい。
それが、日本財団 子どもたちに家庭を
プロジェクトの想いです。

プロジェクト概要