インタビュー
韓国の未婚母支援、養子縁組を学ぶ旅 その②:ベビーボックスと養子縁組機関でインタビュー
韓国のベビーボックス
韓国には2つベビーボックス(赤ちゃんポスト)が存在するということで、初代ベビーボックスの運営母体である主愛共同体(キリスト教会)を訪ねました。
主愛共同体では、リー牧師が、障害児の孫を残して亡くなったおばあちゃんからその孫を自ら引き取り自分の子どもとして育てるところから、親がどうしても育てられない障害を抱えた子どもを引き取り家族として養育するという働きをしていました。その噂が広まり、産んでも子どもを育てられない女性が、教会の前や駐車場に生まれたばかりの赤ちゃんを置いていくようになったそうです。
2007年の冬に、生臭い魚を入れる箱に入った赤ちゃんが教会の前に置かれており、赤ちゃんは低体温から危険な状態にありました。こうして置いていかれる赤ちゃんのために、安全な場所が必要ということで、チェコスロバキアのベビーボックスを運営する母体とも連絡をとり、2009年12月に韓国のベビーボックス第1号が完成したそうです。作りはとてもシンプルですが、外から温かい箱に赤ちゃんを入れるとセンサーで知らされる仕組みで、2015年9月までに784人の赤ちゃんが入れられたということです。
2012年の養子特例法改正により、子どものルーツ探しのために家族関係登録簿(日本でいう子どもの単独戸籍)に実親の名前が入る出生届が必須となり、また出生後1週間の熟慮期間が設けられ、育てる意志がなくても産後2泊程度した後は子どもを病院から連れて帰ることになりました。この法改正の影響により、当初月に2-3件だった利用が2013年には年間250件の利用件数となっており、韓国内での議論の火付け役となったそうです。
非常に残念なのは、ベビーボックス運営に対して国は「児童遺棄を助長している、不法施設」という見解のため経済的支援はないということです。そして、ベビーボックスに入った子どもは役所へ通告されて施設に送られ、その後18歳まで施設養育される場合が多く、養子縁組で家庭へ移る子どもは非常に少ないということです。
子どもの命を救うことを最優先しベビーボックスを運営している主愛共同体は、ベビーボックスに赤ちゃんを入れるようアピールしているわけでは決してなく、妊娠葛藤相談を積極的に受け、育てたい思いのある人へは1~3年利用できる母子のための保護施設も運営しています。美容関連やバリスタ、調理師などの資格を取得するための自立支援、母子家庭へのミルクやオムツ、おもちゃなどの物資支援もあり、短期間赤ちゃんだけを預けるベビールームもあります。主愛共同体のこれらの活動は、国には認められていませんが、「Drop Box」という映画になり、世界21か国で上映され、すでに400以上のメディアに取り上げられ、バングラディシュやエチオピアでのベビーボックスの設置にもつながっているそうです。
ベビーボックスを利用しなければならないほどの事情を抱えた女性とその子どもの未来のために、民間と国がどう現実に見合った政策のために歩み寄り、何を優先した法律を作っていくのか・・・、児童福祉法改正や養子縁組の法律制定に取り組む日本から、韓国の今後を注意深く見守りたいと思います。
韓国の養子縁組機関と養子縁組の法律
1970~1980年代、韓国では国際養子縁組が盛んとなり、未婚の母から生まれた子どもや施設にいる子どもたちが年間4000人から9000人近くも海外へ養子として出されていました。その子どもたちが成人して当事者として声を上げるようになり、また未婚でも子どもを養育する女性たちも当事者団体を作り声を上げる中、これまでのような海外へ渡る養子縁組が見直されるようになりました。
このような背景から、ハーグ条約の批准を目指し、国内養子縁組を優先した「養子縁組特例法」が2011年に改正され、中央養子縁組院が設立されました。この中央養子縁組院が、養子縁組に関する情報を統合して管理し、子どものルーツ探しなど養子縁組後のアフターサービスの体系化をし、各民間養子縁組機関と連絡を取りながら支援・監督する機関となります。
2012年8月に施行となった養子縁組特例法は、韓国の大手養子縁組機関である東邦社会福祉会にも大きく影響していました。2012年に年間400件あった国内養子縁組、200件あった国際養子縁組は、ともに2014年時点で半減しているということでした。未婚母の支援が充実したこともあるということですが、法改正によりそれまで養子縁組機関の判断でマッチングし委託していたのが、裁判所が介入することとなったため養親が裁判所へ出向く抵抗感があり、また審査にも時間がかかることや、未婚の母の出生届も大きな壁になっているようです。
父母を探すための努力、養親となる者の資格強化、裁判所や中央養子縁組院への提出書類の増加、アフターフォローの強化、記録の永久保存など、民間機関に課せられる業務は非常に多く、国からの補助は国内養子縁組1件確定ごとに270万ウォン(27万円程度)で養親からの徴収はなしということなので、民間機関の運営はますます厳しい状況にあることがうかがえました。
ソウルやプサンのような大都市では、裁判所の判決前に養親に子どもを委託することに難色を示されており、また、国際養子縁組の前には5か月間は国内で養親を探さなければならず、養親家庭への委託を待つ子どもたちや、障害や病気のある子どもたち、男の子たちは、養子縁組機関が運営する保育施設か、里親のような委託家庭で養育されながら待っていました。養親の希望も聞いているこの団体では、80%の養親希望者が育てやすくて優秀と思われている女の子を希望しており、男の子の委託がなかなか進まないというのは悲しい驚きでした。私たちが訪問した時点で、320人の裁判結審前の子どものうち、120人が委託先が決まっていないということでした。よくよくは中央養子縁組院が管理しているデータベースを用いて、国内で養親を見つけやすいシステムにしていきたいとのことですが、現時点では民間機関同士のやりとりはなく、委託が決まらない子どもの養親を別の機関でも探してもらうということはないそうです。
ハーグ条約の批准を目指して法律の改正をしたものの、養子縁組が激減し、養子縁組機関の負担が増し、家庭へ行くのを待っている子どもたちを抱える韓国。その先進的な動きとそれに伴う大きな課題から、日本が考えなければならないヒントが与えられていると感じました。
私たちは、社会と子どもたちの間の絆を築く。
すべての子どもたちは、
“家庭”の愛情に触れ、健やかに育ってほしい。
それが、日本財団 子どもたちに家庭を
プロジェクトの想いです。