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アメリカにおいて質の高い里親養育を推進した弁護士 キャロル・ショーファー(Carole Shauffer)氏インタビュー「幼い子どもたちを施設に留めていてはいけない」

子どもの権利擁護と里親推進のためのアドボカシー団体「ユース・ロー・センター」のシニア・ディレクターであるキャロル・ショーファー氏が、2024年11月に来日。「日本子ども虐待防止学会」などでの講演、児童福祉関係者、国会議員との懇談などを行いました。1980~90年代にかけて、アメリカの多くの州で施設養育から家庭養育へ移行した際に尽力したキャロル氏に、当時のアメリカでの活動のこと、養育に適切な環境とは、そして里親をサポートするためのプログラム(QPI)開発などについてお話を伺いました。

(聞き手 日本財団子ども事業本部長 高橋恵里子)

ユース・ロー・センター(Youth Law Center) 
シニア・ディレクター
弁護士 キャロル・ショーファー(Carole Shauffer)氏

施設を訪問し「まだこんな不平等があるのか」と衝撃を受けた

――弁護士であるキャロルさんが、子どもに関わる活動を始めたきっかけは?

私はもともと、子どもの発達について学び、研究していました。その後、公民権に興味を持ち弁護士になりましたが、引き続き子どもたちのために、特に権利を守ることを大切にしていきたいと思い、アメリカ自由人権協会(ACLU)で働き、いくつかの訴訟を担当しました。そのときに、隔離された施設にいる子どもたちや、施設養育の問題について関心を持ち、ユース・ロー・センターで働き始めました。

ユース・ロー・センター(Youth Law Center)とは:里親養育と少年司法体制向上のために全米規模で活動する弁護士で組織されたアドボカシー団体

――乳幼児の施設養育の問題に積極的に取り組まれたのはなぜですか?

初めて集団養育をする施設を訪れたとき、衝撃を受けました。その頃、私自身にも3歳と0歳(3カ月)の2人の子どもがいました。同じぐらいの年齢の子どもたちが、施設にいることを目の当たりにしたことがショッキングでした。「まだこのような環境があるのか」と、信じられませんでした。

私の子どもたちは親に育ててもらえますが、この子たちには親から養育してもらえる環境がまったくなく不公平です。しかし私は弁護士ですし、ユース・ロー・センターで働いていますので「こんなことを受け入れる必要はない」と思いました。そして、「州を訴えればいい、訴訟をおこそう、そして変えていけばいい!」と思ったのです。

そこで私は子どものためにいくつかの訴訟を行いました。まず取り組んだのは、病院に長期入院している子どもたちのことです。アメリカではクリスマス近くになると、「ボーダーベイビーズ(境界線にいる子どもたち)」という、貧しい子やかわいそうな子どもたちのテレビ番組が放映されていました。その年の番組は病院に長く入院している子どもの特集でした。病気の治療のためではなく、親たちが育てることができないという理由で、どうすることもできなくて、子どもたちは長く入院させられていたのです。私は驚き理不尽に思いましたが、「私は弁護士としての力を持っているから、これを使わない手はない」と奮い立ち、さまざまな関係機関に連絡して、子どもたちの環境改善の訴訟を起こしたところ、その状況を改善することができました。最初のケースはうまくいったと思います。

その後、子どもを隔離して集団で養育する施設は、思っていたよりも広範囲に存在していることを知り、そうした施設を一つずつ閉鎖していくために働きかけました。

――施設の閉鎖後、子どもたちは行く場所はあったのですか?

実親の家に帰ることができる子どもたちもいました。それが上手くいかないときは、祖父母や親戚の家庭にいくことも多かったです。養子として迎えられる子もいました。それ以外の多くの子どもたちは里親養育に入ることになります。しかし、そこには壁がありました。里親の募集がうまくいっていない、里親の社会的な認知が高まってない、などの問題が明らかになったのです。

多くの子どもたちが施設に入所していた背景には、80年代後半から90年代にかけて大きく社会を揺るがした薬物乱用の問題がありました。私たちは当初、ニューヨーク州、フロリダ州、カリフォルニア州などの都市部を中心に活動しました。こうした都市部では、子どもを家庭で受け入れる準備がまったくできていないことから、多くの子どもたちが病院や施設に長く入院・入所させられていました。

――施設を閉鎖したことで、乳幼児が施設に入ることはなくなりましたか?

そうですね、幼い子どもが施設で養育される状況はなくなってきました。政府はこうした施設に対する助成、経済的支援を打ち切りました。これが大きな要因となり、幼い子どもの施設養育は終わりを告げたのです。ここまで来るには時間がかかったと思います。法律もいくつか改正されました。

――具体的にはどのような法律ですか。

大きく分けて2種類の法律があります。1つ目は施設のルールを制限する法律です。職員が次から次へと交代して子どもに関わるシフトケアをなくすこと。また、スタッフのスキルの水準を上げていくこと、施設に入所する子どもの数を減らすということです。そして2つ目が助成金に関する部分。資金援助をカットするという法律です。施設での養育にかかる費用は、大部分が州と連邦政府からの助成等で賄われていましたが、それらの援助は打ち切りになりました。

これらを成し遂げるには、さまざま機関が連携して同時に事を起こしていくことがとても大事です。私たちはアドボカシー団体です。一方、アメリカでも財団の存在は大きく、市民や議員への周知啓発にとても大きな役割を果たしていました。説明を受けた議員が関心を持ち、リーダーシップを発揮して連携していく、というスタイルができていました。

愛着スタイルは孫の世代にまで影響を与える

――改めて、乳幼児が施設で育つことはなぜよくないのか、教えてください。

概ね3歳くらいまでの小さな子どもたちには、愛着対象が不可欠です。子どもの周辺には1~3人ほどの、いつも頼ることができる特定の大人がおり、子ども自身が「自分のニーズを満たしてくれる存在」と思えることがとても大切です。満たされた経験を得て、子どもは「他の人を信頼する」ということを覚えていくわけです。

幼児が「自分一人で行動しても安全だ」と思えるようになるのは、あくまで親がサポートしているからです。そうした関りが必要な時期に、少数の特定の大人ではなく、たくさんの異なる大人が交代で関わるしかない状況では、子どもは一人の人間と本当につながることができません。それは、子どもたちの将来の行動面にとても大きな影響があります。大人を信じられなくなり、つながりや関係性を築いたりすることも困難になる、ということが後々起きてくるのです。

それにそれが積み重なると、彼らの愛着スタイルがその次の世代にも影響します。彼ら自身の子どもに対して、その孫に対しても影響が出てきてしまいます。これらは色々な国で何年も行ってきた研究に基づいていますし、ルーマニアでも非常に綿密で優れた研究が出ています。

とはいえ、これは最近の研究による新しい考えではありません。例えば、私の祖母は移民で英語も話せませんでしたが、「赤ちゃんには母親と父親が必要だ」ということは知っていました。ルーマニアの研究はよりエビデンスに優れていますが、私たちはずっと前からこのことを知っていたはずです。

――日本の社会的養育も、パーマネンシーや家庭養育を優先する方針へと移行しているところです。何かアドバイスをいただけますか?

大切なことを3つ挙げたいと思います。1つ目は、非常に緊急性が高いことであるという感覚を持つ必要性です。一刻の猶予もないことなのだと認識してください。ある人は「5年も10年も施設に居続けるわけではないのだから」とおっしゃるかもしれません。でも子どもには毎日毎日何らかの影響を及ぼすのです。子どもは日々それを体感します。1日でも一瞬でも待ってはいけないと思うことが肝心です。

2つ目は実親が子どもに対して、「今は自分で育てられないが、この子は施設に居て欲しい」ということを言えるようにしてはいけません。なぜなら、施設での養育は特に小さな子どもにとって負担が大きいからです。子ども自身は何も悪いことをしていないのに、親の間違った判断で子どもに負担がかかるのは、とても不平等なことです。

3つ目に、里親が実親と協力して子どもを育て、愛することができるように、里親に充分な支援を提供する優れた里親制度を構築することです。実親が与えることができない養育、愛情や栄養やサポートを、里親が子どもに充分与える。「素晴らしい養育」がそこにあることが大事だと思います。

QPI=質の高い養育のためのプログラムとは

――キャロルさんたちが開発されたQPI(※)というプログラムについて教えてください。

※QPI:クオリティ・ペアレンティング・ イニシアティブ(QUALITY PARENTING INITIATIVE)は、里親ケアを改革するため、関係重視のアプローチを行うプログラム。

 QPI を実施しているアメリカのサイト

QPIのホームページはこちら
https://qpi4kids.org/

社会的養護の子どもたちに提供されるべき養育について、私たちは「もし自分の子どもを育てられない状況になってしまったとき、自分の子どもに育ってほしいと思えるような環境であるべき」と考えています。

つまり、社会的養護の制度の中にいるときも、その外に出たときでも、素晴らしい養育環境で育つことができるように、早い段階で実家庭をサポートして家庭に戻るとか、それが難しければ養子縁組などの恒久的な家族環境で育てられることを望んでいます。

そこで私たちは、子どもたちに優れたケアを提供できる里親を確保して育てていくにはどうすればよいかを考えて、QPIを開発したのです。里親を確保して育てるためには、どうすればいいのか。現在の里親制度の何を変える必要があるのか、何をやっていかなくてはいけないか、ということを考えるのがQPIです。

考え始めて気づいたことは、制度の多くが「子どもにとって素晴らしい養育」には着目していないため、制度の中に壁がたくさんあったということでした。したがって、素晴らしい里親がいても、制度に阻まれてベストな養育をすることができないということが往々にしてありました。

――QPIは現在、どれくらいの州で取り組まれているのですか

米国内80のコミュニティで実施され、成果を上げています。QPIで取り組んでいることは、コミュニティ全体の人々が集まって「素晴らしい養育とはどういうものなのか」ということについて対話し、合意に至るということです。そこで何をしていきたいか、何をすべきなのかを話し合って、合意に至るということが大切です。

そこで合意に至ることは「里親は里子を実の子どもであるかのように愛すことが必要ですよね」ということであったり、「里親と実親が何らかの形で協力して取り組むことによって、その家族と地域とのつながりを保ち続けるべきです」ということだったりします。もしくは「里親さんは里親制度の中で尊重されるべきですよね」ということなどを話し合います。

こうした会話をコミュニティの中で行うことで、制度がどのように変わっていくべきかを見出していくのです。ゴールを達成するためにはどのようなサポートができるか、変えなければいけないところはたくさん出てきます。なぜなら、制度自体がもともと子どもと里親の関係性を助けたり、里親と実親との関係をサポートできたりするようには設計されていないからです。

里親が尊重される里親制度でなくてはならない

――日本では、子どもが里親家庭から実家庭に復帰すると、里親は二度と子どもに会えないという事も多いと聞きます。QPIのプログラムではどうでしょうか?

このようなことに対して、私たちが原則としているのは、子どもを 1つの場所から別の場所に移すときに、たくさんの準備をしておかねばならないということです。これからどうしていくか話し合い、計画を立ててからでないと、移行してはいけません。最初から考え続けなければいけないのは、子どもの元の家族との関係性を維持し続けるということ。それも準備の一つです。子どもの生活の場があちこちに行ったり来たりすると、それは結局、施設のシフトケアで起きる事態と変わらず、子どもは大人を信頼することができなくなってしまいます。乳幼児にとっては、よく知らない家族の間をあちこち移動させられることは、とても怖いことです。準備ができてから移行することが大切です。

それから、里親をしていたのにやめてしまう人もいます。そうした方々に理由を尋ねると「制度が私たちのことを尊重してくれている感じがしないから」とおっしゃいます。里親制度の中で私たちは子どものことを愛しながら養育していきたいけれど、サポートしてもらえないとか、子どもをすぐに移行されてしまう、というようなことが起きて、子どもとの間に愛着を作ることが難しいのです。「とてもつらくて、続けられない」と言われる方々は、実は本当の意味で素晴らしい里親であったりします。それだけ子どものことをよく考えてケアしている方々だからこそ、しんどくなるのだと思います。

なので、私たちのQPIの原則の中のひとつ、「里親は制度の中の大事なパートナーの 1人として尊重されなければいけない」、という感覚にならなければいけません。制度はそうあるべきだということです。ベビーシッターのように「これをやってください」と言ったら、その通りにやってくれるような人では決してないということです。

まずコミュニティがみんなで一緒に集まって、どうしていったらいいか、何をしたいか話し合う社会であることが大事です。そのなかで、一人ひとりがチームの一員であることに気づき、それをシェアすることができることが重要です。

さらに、実際に子どもたちを支えている方々を尊重し、彼らに力を発揮してもらうことが大事です。例えば里親やソーシャルワーカー、現場で体験をしている方々、もしくは実親に、どのような変化が望ましいか提案していただき、変化を起こすために協力していただく。制度の中で、ただ上から「何かやってください」と言われるよりも、よほど意味のあることだと思います。

――そうすると、研修などもたくさん必要になってくるのですか。

そうですね。私たちが大きく変えたことのひとつに、里親同士がお互いに研修をし合う、お互いにサポートをし合うということがあります。また、経験の豊富な里親が、新人里親のメンターとなりサポートすることです。

さらに、里親の研修は里親が子どもを預かった後にも行いました。それ以前は、子どもを迎える前にたくさん研修を受けていただいていましたが、子どもが家に来た後も、その子どもの特性に対して学ばなければならない必要なケアに関する研修を受けます。

里親と実親のつながりが続くことの大切さ

――QPIにはこれまでどのような成果がありましたか?

たくさんありますが、里親は今まで以上に非常に多くの情報共有ができるところが大きいと思います。また、里親研修の質も上がりましたし、サポートの体制も充実しました。これは里親同士の間で起こることも含めてです。大きな成果といえるのは、実親と里親の間のコミュニケーションが増えたことです。実親家庭に再統合された後にも実親と里親の間での関係性が続く、ということも起きています。

もし子どもが実家庭に戻ることができなくても、子どもが実親との関係性をある程度続けられることは大切なことです。社会的養護下の多くの子どもは実親がどんな人なのかとても知りたがります。実親は自分のことを愛してくれているのだろうかと、親は自分を愛し、世話しようとしてくれていたことを知りたがっている。もし一緒に住めなかったとしても、それを少しずつでも伝え続けて、つながりを維持していくことは大事です。

――日本でQPIを学びたい場合はどうしたらいいでしょうか。

もし日本の皆さんと一緒に取り組んでいけるならとてもうれしいです。QPIのアメリカと、そして日本の里親関係者がパートナーとしてやっていけるなら、とても素晴らしいと思います。

QPIでは、まずミーティングをすることです。地域社会のメンバーの方々、そこに含まれる里親、ソーシャルワーカー、実親、教師、医師など、子どもを取り巻く関係者が集まって「今の状況はどうなっているか、私たちはどこに向かうべきか」と話し合いをしながら、チームになっていく。その上で、どう変化させるか計画していくことが最初のステップです。

日本子ども虐待防止学会での講演会の様子
長野県では県職員、里親、施設関係者などが集まりました

――日本での講演活動や勉強会での印象はいかがでしたか?

私は今回、日本の皆さんとご一緒して驚いたことでもあるのですが、私たちがアメリカで抱えてきた問題と皆さんがここで抱えている問題は、とても似ていると思います。なので、私たちの経験やツールをぜひ皆さんと共有したいですし、皆さんがこれから日本で開発されるものを、ぜひ私たちも学びたいと思っています。

今回、日本の皆さんが温かく迎え入れてくださったことをとてもうれしく思っています。私自身だけでなく、私たちの考え方、QPIにも関心を持っていただいたことにワクワクしています。私がお会いした方々はコミットする力をお持ちで、それらをすべて子どもの幸せのために尽くしていることに感動しました。

皆さんが子どもにより良い人生を送ってもらうために変化を起こすべきだ、子どもとその家族の人生がより良いものになるべきだとおっしゃっていただいたことがとてもうれしく、共感いたしました。ありがとうございました。

私たちは、社会と子どもたちの間の絆を築く。

すべての子どもたちは、
“家庭”の愛情に触れ、健やかに育ってほしい。
それが、日本財団 子どもたちに家庭を
プロジェクトの想いです。

プロジェクト概要