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「里親制度の国際調査報告書」の公開
背景・目的
2016年の児童福祉法改正と2017年の「新しい社会的養育ビジョン」では未就学児の里親委託率75%、学童期の里親委託率50%の目標が示されたが、2021年度末の3歳未満の委託率は全国平均で25%、2022年度が25.3%と実態は目標からかけ離れている。その中で3歳未満の里親委託率が高い自治体として、浜松市の85%、福岡市72.5%などあるものの、一けた台の自治体も複数存在し、自治体間の格差が大きい。
一方で、国連で採択された「子どもの代替養育ガイドラン」では乳幼児、特に3歳未満の子どもは原則として家庭で養育するべきとされている。また、ヨーロッパの多くの国々ではすでに乳児院が閉鎖され、乳幼児は家庭で育っている。
本調査は、諸外国において3歳未満の社会的養護下の子どもがどのように養育されているかを調べるとともに、各国の里親の類型、手当、里親に対する支援、里親の権利等を調査し、日本に対する政策提言を行うための基礎資料とすることを目的とする。
本書の概要
①調査方法
前段では、ドイツ、イタリア、スウェーデン、イギリス、米国ワシントン州、カナダ ブリティッシュ・コロンビア州、同オンタリオ州について文献調査を行った。さらに調査の後段では、文献調査を行った国・地域の中から複数地域を選定し、制度の実態や文献では把握できなかった詳細等を調べるために訪問調査を行った。
②訪問調査対象国
欧州:ドイツ、スウェーデン、イタリア北米:米国 ワシントン州、米国 カリフォルニア州、カナダ ブリティッシュ・コロンビア州
③調査期間
文献調査:2023年9月~2024年3月
訪問調査:2024年4月~5月
④調査内容
各国における制度の概要、里親類型、里親手当、里親への支援、乳幼児の社会的養護の現状等
調査の考察及び日本への提言
①「施設」で養育される乳幼児はごくわずか
日本への提言1:子どもの最善の利益を優先し、乳幼児、特に3歳未満の子どもの家庭養育の徹底をはかり、乳児院の機能転換をすすめること |
②「母子を分離しない」という選択
ヨーロッパでは母子施設がどこの国にもあり、妊娠期からも入居が可能なところもあった。スウェーデンでは、母親が子どものケアをできるかどうかを調査するために、出産後は母子で母子施設に入所させてモニタリングを行い、その後の支援方針を決定するという取り組みも行われていた。イタリアのミラノ市では、社会的養護が必要な乳幼児の場合には、子どもだけを施設に入所させるのではなく、母子で施設に入所し、母子に対して支援を行うことを優先していた。また、親子を受け入れる里親である親子里親の制度も、スウェーデン、イタリア、アメリカなどで確認できた。
日本への提言2:支援を必要とする妊婦や生後すぐの母子が入居できる施設の拡充や、母子が委託できる親子里親の開拓を進めること |
③緊急里親、短期里親、親子里親など様々な里親類型
国ごとに様々な里親の類型や措置の種類があることが把握できた。ヨーロッパでは親族里親(子どもの知人を含む)、短期里親、長期里親、緊急里親、治療里親、親子里親などの類型が見られた。特に緊急里親は、乳幼児を保護する際に必要とされている制度であり、訪問したスウェーデン、イタリア、ドイツで類型があった。それぞれの国で緊急時でも里親を確保することができるような仕組みに工夫が見られた。
日本への提言3:里親類型を見直し、緊急里親や短期里親などの創設を検討すること。 |
④ 多様な里親がおり、子どものニーズに応じた手当が設計されている
訪問国ではいずれも同性カップルやシングルなど多様な里親を認め、実際に活用していた。里親手当については、多くの国で年齢や支援ニーズ(身体、発達、精神など)に応じて違いを設けていた。共通した見解として、どこの国でも里親は不足しており、共働き世帯が増えているため、赤ちゃんや子どもの受け入れ時など1人は家にいること求められる場合は、職業の保障となる金額が必要とのことだった。
日本への提言4:ニーズに応じた里親手当について検討すること |
⑤ 里親に対する支援が多様で厚みがある
本調査の訪問調査の際には、「里親に対する支援を手厚くすることで、子どもを支えている」といった発言が多く聞かれた。特に里親当事者からは、「里親同士の横のつながりが非常に重要なサポートである」との声は、どの国でも聞かれた。
里子を受け入れた場合に里親が育児休暇を取得できる国が大半であった。育休利用の対象となる里子の年齢や育休期間中の所得補償の有無、育休期間などは国ごとに様々であったが、育休制度があることで、勤労世代や共働き世帯などに里親の裾野を広げるための工夫がみられた。
育児休暇以外にも、里子を養育するにあたっては、里親が休息やリフレッシュをしたり、里子から離れて必要なことをやるための時間を確保できることが非常に重要であるという声も多く聞かれた。ただ実子と同じように親族や友人に子どもを預けることが基本であり、里親の認定プロセスの中でも、助けてくれる親族ネットワークを重視している国もあった。
日本への提言5:里親への支援をよりきめ細かく拡充すること |
⑥ 親族里親の活用
今回訪問した国では、親族または知人など子どもとの関係がある里親に委託したほうが、子どもの安定にも育成にも良く不調も少ないというエビデンスがあることから、親族里親(子どもの知人を含む)を積極的に活用している。多くの国で、親族や知人の場合には、里親になるための要件を緩和したり、里親資格がなくても一定の支援を提供するといった取り組みを行っていた。
日本への提言6:親族や知人など子どもとあらかじめ関係がある里親への手当や委託の条件などを見直し、積極的な活用を図ること。また児童相談所が子どもを保護した際に、その親族や知人が養育できないか優先的に探す仕組みをつくること。 |
⑦ 地方自治体と民間里親機関の役割分担
すべての訪問国で民間里親機関が存在した。自治体も民間機関もそれぞれ自前の里親をかかえており、里親は民間か自治体のどちらか一つを選んで登録する(※スウェーデンのみ両方の登録が可能だが、混乱が生じているため今後制度改革を予定とのこと)。
地方自治体は自治体登録の里親か民間登録の里親に委託する。里親の立場からすれば、里親自身が自分に合った民間機関か自治体を選ぶことができるのは大きなメリットである。日本では2024年から里親支援センターの運営が開始されたばかりであり、現在は登録里親数に応じた補助金となっている。どのような里親支援センターの在り方が望ましいのか、引き続き自治体間の情報交換を行いつつ、検討が必要である。
日本への提言7:里親支援センターへの措置費について、委託された子ども一人当たりの支払いの導入を検討すること。また、里親が支援機関を選べる仕組みの導入や、地方自治体と里親支援センターの役割分担ついて引き続き検討を続けること。 |
⑧里親関連業務を担う職員の専門性
すべての訪問国において、地方自治体でも里親機関でも、資格のあるソーシャルワーカーや教育士(エデュケーター)など、専門的な教育やトレーニングを受け、子どもにかかわった経験のある職員が里親支援業務を行っている。また、訪問した国では、1人のソーシャルワーカーが子どもの保護、里親の認定、マッチングや措置後のフォローの全てを担当するのは負担が大きすぎるとして、分業態を敷いている。里親や養子縁組などを担当する職員は複数配置されていた。ソーシャルワーカーが担当するケース数は国によっても違いがあるが、おおむね1人当たり10~35件程度であった。
日本への提言8:地方自治体の児童保護や社会的養護を担当する職員は資格を持つ専門職として勤務できる体制を構築する。また里親や養子縁組業務を担当する職員を増加し、担当ケースの削減を図ること。 |
⑨社会的養護を担うチームの一員としての里親の地位向上
子どもを中心とした支援を行うには、里親がスキルを向上させるだけでなく、里親が社会的養護を担うチームの一員であるという認識を社会的養護に関わる全員が認識するこが重要である。イタリアやドイツなどは子どもが里親家庭を離れた後も、関係性を維持できる権利を認めているスウェーデンでは、里親家庭に里子が2年以上滞在すると、親権の移譲(custody transfer)が可能となる。子どもが実家庭に戻ることが難しい場合、里親が親権を持つことで里親は医療的な決断やパスポートの作成などが可能となる。
子どもや実親の情報について、ドイツでは子どもの情報はすべて里親に伝えられる。また個人情報保護法はあるが、養育に必要と認められれば実親の情報(例えばアルコールや薬物に関する情報等)も里親に伝えられる。
日本への提言9:子どもの最善の利益を第一に考慮したうえで、社会的親としての里親の権利の保障や支援の在り方を検討すること。 |
⑩ 裁判所の介入
多くの国で子どもの保護や親子分離には裁判所がかかわっている。子どもの権利を守るためには、福祉だけでなく、司法が子どもの権利を尊重して適切に関与すること、そのための研修や体制を整えることも重要である。
日本への提言10:親子分離や子どもの措置について司法が子どもの権利を尊重して適切に関与する体制を整え、また子どもの権利や福祉について裁判官への研修が提供されること。 |
⑪「施設」について
調査した国・地域では、社会的養護の子どもを養育するための「施設」であっても、そのほとんどは小規模化されていた。
イタリア | 法律で12人以上の施設は禁止されている。 |
米WA州 | 制度的には5歳~18歳の子どもが入所可能だが、大多数は12歳以上、最大定員6人 |
米CA州 サンディエゴ郡 | グループホームにいる子どもの最低年齢は9歳、最大定員は5人。同郡にはパランスキー・チルドレンズ・センター(シェルター施設)があり、時期によっては6歳以下の子どもが滞在することもある。同センターの滞在日数は最大10日間と定められているが、低年齢児の場合は滞在日数が6~8日間と変動する。 |
加BC州 | 乳幼児や低年齢児はグループホームには入らない。グループホームの最大定員は青少年(Youth)5人 |
日本への提言11:児童養護施設の小規模化、地域化を早急に進めること。 |
⑫青少年の措置
すべての訪問国において、子どもは家庭に措置されることが基本となっている一方で、一部の国においては、青少年については、ケースによっては施設への措置のほうがうまく機能することがあることを認めている。しかし、施設への措置であったとしても、小規模で家庭的な環境が整備されている。子どものニーズに応じて、多様で柔軟な措置先の検討が必要である。
日本への提言12:青少年の措置先は、ケースに応じた柔軟な検討を行い、施設に措置する場合においても、家庭的で愛着関係を形成できる環境を整えること。 |
⑬ 社会的養護に入る前の予防的支援の強化
今回の調査では、社会的養護だけでなく、子どもが社会的養護に入ることを予防するための取り組みに注力しているといった声が聞かれた。
各国に共通して見られた、「子どもに対する支援」における意思決定の優先順位は図表 6‑1の通りである。
図表 6‑1 リスクのある子どもや家族を支援する際の諸外国の優先順位
子どもや家族の支援の優先順位 | |
1. | 【予防的支援】 子どもが家族の中で育つ(家庭外措置しない)ように家族を支援 |
2. | 【ネットワーク養育の優先】 子どものネットワーク内(親族、友人など)での養育を優先 |
3. | 【里親(家庭的環境下)での養育】 家庭的環境(里親家庭)へ措置 |
日本でも2024年からの改正児童福祉法の施行により、養育訪問支援事業や親子関係形成支援事業などが開始するが、社会的養護と比較すると予算の規模は小さく、さらなる予算の拡充が求められる。
日本への提言13:子育てに困難をかかえる家庭に親子分離を防ぐ予防的支援をさらに拡充すること。また、週末里親やスウェーデンのコンタクトパーソンに類似の制度など、家庭が予防的にかかわる仕組みを検討すること。 |
参考資料(本提言書別紙)
お問い合わせ
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム(子どもたちに家庭をプロジェクト事務局)
メールアドレス:kodomokatei@ps.nippon-foundation.or.jp
私たちは、社会と子どもたちの間の絆を築く。
すべての子どもたちは、
“家庭”の愛情に触れ、健やかに育ってほしい。
それが、日本財団 子どもたちに家庭を
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